大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)1818号 判決

被告人 渡部門次

〔抄 録〕

論旨第一点乃至第六点について。

論旨中原判示第一の事実誤認を主張する点について按ずるに、原判決挙示の証拠を綜合すると、被告人は自己が周旋をして川島木材工業株式会社に買受けさせた判示立木の伐採及び搬出の業務を同会社代表取締役川島林蔵より依頼されてこれを引受け、同会社のため右立木の伐採及び搬出をなすべき業務(その間伐採した木材を管理すべき業務を含む)を処理することとなつたに拘らず、自己の利益を図るため擅に右立木を大隅明に対し代金二十三万円で売却し、その代金を受領し大隅において右立木を伐採したことを認めることができる。原判決は被告人の右所為を以て背任罪が成立すると認定しているが(尤も原判決は被告人は同会社のため右立木の伐採及び搬出の業務を処理すると共に、その間右立木並に伐採した木材を管理すべき事務を処理することとなつたと認定しているが、立木の伐採及び搬出の業務を負担した者は搬出が終るまでの間伐採した木材を管理すべき任務があるのは業務の性質上当然であるが、伐採前の立木についても当然に管理すべき任務があるということはできないし、記録上かかる任務があつたとは認められない。被告人に対する検察官の第二回供述調書参照)背任罪は他人の事務を処理する者が自己若くは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的を以て、その任務に背く行為をなし、その結果本人に財産上の損害を加えることによつて成立する犯罪であつて、事務処理者の行為は任務に背く行為ではあるが、その行為は本人に対し負担した事務の処理としてなす行為であることを必要とし、その結果本人に財産上の損害を加えた場合でなければならない。即ち後見人、取締役、支配人、代理人、事務管理者等の如く他人の事務を処理する者は、その任務の趣旨に従い誠実に事務を処理し本人の利益を図る義務があるのであるが、これらの者が自己若くは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的を以て、その任務に背く行為をなし、その結果本人に財産上の損害を加えた場合は背任罪となるが、本人に対し或任務を負担した者であつてもその任務と何等関係のない行為、例えば他人の財産を処分する権限のない者が自己又は第三者の利益を図る目的で、擅に他人の財産を処分し、その結果本人に財産上の損害を加えた場合は他の犯罪が成立することはあつても背任罪は成立しないのである。(例えば或時計を一万円以上の値段で売却することを委任された者が、自己若くは第三者の利益を図る目的で、これを一万円未満の値段で売却すれば背任罪が成立するが、或時計の修理を依頼された者が、自己若くは第三者の利益を図る目的で擅にその時計を他に売却した場合は背任罪は成立しないであろう)これを本件について見ると、被告人は川島より判示立木の伐採及び搬出を依頼されこれを引受けたのであるから、右立木を伐採しこれを所定の場所まで搬出する任務(その間伐採した木材を管理すべき任務を含む)はあるけれども、右立木を他人に売却することについては川島より何等の委任を受けていないのであるから、被告人の右売却行為は被告人が川島に対し負担した任務とは関係のない行為であり、被告人も川島に対し負担した事務の処理として売却したものではなく、専ら自己の利益を図る目的で権限なくして擅に売却したものであることが明らかである。故に被告人の右売却行為は川島に対する背信的行為ではあるが、川島に対する事務の処理として任務に背く行為をしたとはいえないから、背任罪を構成しないのにこれを背任罪と認定した原判決は事実の認定を誤つたものである。而して右の誤が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は結局理由があり破棄を免れない。

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